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社 長 コ ラ ムCOLUMN

第71回
2022.07.13

退職勧告の代行?

ヘッドハンティングの看板を掲げていると、さほど多くはないものの、ごく稀に変わった相談が舞い込むことがあります。例えば社長や人事部長からお忍びの連絡があり、「ウチの誰それを円満に辞めさせたいのだが、自己都合で辞める兆しはないので、手を貸してくれないか」というオファーがありました。要するに退社させたいからヘッドハンティングで引き抜いてくれという要望です。多くの場合、「大変優秀な人物なのだがウチの社風に合わない」とか「他社に行けばもっと活躍できる人材だ」などともっともらしい理屈がついてきます。私はそういう理由を鵜呑みにしないようにしています。何か話が回りくどく、妙な印象を受けるからです。どうしてこんなことが起きるか、2つの実例を挙げてみましょう。


1つ目としては、こんな例がありました。ある社長から取締役の退職勧告について相談を受け、詳しく話を聞いてみると、実は退職勧告ではなくロイヤルティ(忠誠)の確認をしようとしているケースでした。そう、甘い水を置いて忠誠心を試そうというのです。その取締役は最高幹部への抜擢が近く、社長は客観的にテストをしたかったようです。ヘッドハンティングなどの誘いを跳ね返して、自社に忠誠を尽くしてくれるかどうか、それを確認しようとしていたのです。

2つ目は何らかの理由で誰かを本当に退社させたいケースです。社内で一定の影響力があり、人望もそれなりにあり、普通にしていると自己都合退職にはならない人物を辞めさせたいということでした。しかし退職に持っていくのが難しいので、外部から変化を与えて揺り動かし、退職に誘導したいというのが要望でした。


私どもTESCOはいずれのケースもオファーをお断りしています。なぜかというと、そういう話を持ち込むのはあまり好感の持てない社長や人事部長が多いからです。正直申し上げて「いかがなものか」という感想です。ご紹介したいずれのケースも、企業のトップというのは、そうしたことを自分でこなすように権限を与えられている立場のはずなので、そのような小手先の対処ではなく、その人物と腹を割って談判すればよいことです。もし社長がその人物の働きに不満があるのなら、「あなたはたいへん優秀だが、ある部分で私の考えに合わない。だから私があなたを長期的に抜粋することはないと思う。この際、外に出たらどうか。あるいは私の考えに同調してある部分を変えられないか」と直言するべきです。

ヘッドハンティングでロイヤルティを確かめるとか、誘い水で辞めさせるとか、そのような回りくどいことをする社長や人事部長は、やがて「策士、策に溺れる」ということになりかねません。人間的魅力のない経営者は底が見えています。このような依頼はごく稀ながらあり、またこういう行為を乱発している社長もいるようです。小手先のことで味を占めてしまうと、継続的に手を染めるようになり、それが癖になります。私どもTESCOは魅力的な報酬を提示されても、こういう話には乗れません。


おそらくこのコラムをお読みのみなさまも、こうしたエピソードを知って、「経営者はいろいろな作戦を考えて偉いな」と思うよりは、「器量の小さな経営者もいるものだな」とお思いになるのではないでしょうか。社長に限らず、読者のみなさまが会社でその一翼を担っていくとき、いつもお話ししているように、実績、スキル、経験も重要ですが、たとえそれを持ち合わせていたとしても、やはり人間的な魅力がなければ、高い責任を負えないということをご理解いただけると思います。例え困難があろうと、正々堂々とぶつかっていく姿勢を見せていただきたいと思います。


以上