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社 長 コ ラ ムCOLUMN

第74回
2022.09.14

張り込みは最後の手段

私は人材サーチの業界に入ってすぐ、自費で探偵学校に通いました。まだ若い駆け出しの頃の話です。当時は仕事のスキルやノウハウを先輩たちに教えてもらうことができませんでした。仕事は教わるものではなく盗むものだという時代です。すべて自力で会得しなくてはなりません。そこで探偵が持っている技術に着目したのです。


最近はインターネットの活用で相当のことが調査できるようになりました。しかし私の持論ですが、業種によっては“アシマメ”にかなうものはないと思っています。アシマメとは自らの足でまめに現場に出掛けることです。探偵学校で学んだことは非常に有意義で、現在はエグゼクティブ・サーチに転用し、人探しのノウハウとして駆使しています。そのなかで今回は張り込みについてお話ししようと思います。


張り込みのニーズが比較的あるのは、製造業の技術者をサーチするときです。優秀なエンジニアほど警戒心が強いですし、その存在そのものが企業の競争力の源泉になっているため会社もガードを固めます。私どもの業界で最も接触の難易度が高いのは技術者だと申し上げて相違ないと思います。技術者を探してきてほしいというクライアント企業の期待は多大なものがあります。


技術者の方は自分が露出するSNSなどを使いませんし、メールアドレスさえ非常に複雑な乱数表示に変えられていることがあります。本人も企業も接触を回避する工夫をしていて、私どもは情報が取りにくく難しいサーチに取り組むことになります。そこで探偵のノウハウである張り込みが登場します。

ターゲットが明確なサーチの場合、私どものクライアント企業が情報を持っているケースが多く、その情報量に応じてアプローチの方法も変わります。私たちは張り込みで接触しないと絶対にコンタクトできない場合に、この手法を選択します。まずターゲットのおおむね1週間の出社時刻、退社時刻を調べ、通勤手段が車か電車か把握します。行動パターンをつかんだら、何曜日の何時頃にこういう行動を取るとアタリをつけておきます。多くの場合、接触はターゲットが勤務する研究所や工場の退社時を狙います。ここではすでに技術者の生活パターンや行動特性をつかんでいることが前提です。張り込みでは目立たないレンタカーを使い、会社の敷地や私有地を避け、半径300メートルほど離れて待機します。ターゲットが現れる可能性の高い時刻になったらレンタカーから離れ、本人を目視できる場所に移動して待ちます。もちろんターゲットの顔については記憶しているか写真を持参しています。顔は知らないまでもすでに接触済みで携帯電話番号を知っている場合は、目視されない場所から電話を掛けてみます。普通は出ないか、出ても切られます。電話して話してくれないのはあたりまえで、話してくれるくらいなら張り込みなど必要ありません。ターゲットに間違いなければ、適切と思われる場所で声を掛けます。


以上、張り込みのポイントを5項目にまとめてみましょう。
◎レンタカーは目立たない車種を使う
◎清潔感を失わずTPOに溶け込む服装
◎私有地や建造物への侵入は避ける
◎待機の際の振る舞いやマナーに注意
◎正々堂々とした紳士的な会話


ターゲットと接触して何かトラブルになりそうであれば、自分の社名と身分を明かして目的を伝えます。暴漢などではなく、よい話を持ってきたわけですから堂々と接します。また、クライアント企業から託された経営者の自筆の手紙を渡すなど、誠意が伝わる工夫も欠かせません。この張り込み作戦は最後の手段であり、ここで迷惑がられたら撤退するのが賢明です。ここまでやって断られたのであればクライアント企業も納得してくれるはずです。


張り込みを必要とするサーチは滅多にありません。ここまで執着するターゲットは特殊技能者に限られ、コンタクトが非常に難しい職種になります。しかし、いざ持ち込まれた際に、対応できるスキルとノウハウは持っていなければなりません。私が探偵学校に通ったのも有意義なことだったと思っています。


以上