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社 長 コ ラ ムCOLUMN

第59回
2021.12.15

競合企業に転職する際の注意点

今回はヘッドハンティングの現場で起きるリアルなエピソードを取り上げてみたいと思います。この業界では日常的にいろいろな切り口のドラマと出会いますが、よく直面するのは競業避止の問題です。これは特に技術者の方によくある話なのですが、入社時に「競合他社に転職しない」という誓約書にサインさせられた方も多いのではないでしょうか。いわゆる競業避止という取り決めです。これは技術者ばかりでなく、上級管理職の方でも同様の誓約書に署名・捺印を求められることがあると耳にします。


こうしたサインをされた方々も一人ひとりが自分のキャリアを考える立場であることに変わりはなく、その署名・捺印の有効性やリスクについて私たちTESCOへ相談に見えることがあります。また、私たちがスカウト活動をしている場合にも、最終段階で「実は競業避止のサインをさせられている」と告白されるケースがあります。なかには「辞める」と言ったとたん、競合企業に転職できないという文書を見せつけられるケースもあるようです。こうした場合、競業避止の取り決めはどの程度の効力を持つのか知りたくて、私たちTESCOへ相談に見える方も多いというわけです。


私たちTESCOは46年間、そうした実例や裁判事例を数多く見てきました。そこで実感したのは、日本では日本国憲法に規定された職業選択の自由があり、これは憲法の規定である以上、すべての法律に優先するということです。職業選択の自由という大原則のもとで競業避止を考えると、従業員側が裁判で優位に立つであろうことは明白です。実際、ほとんどの裁判で従業員側が勝訴しています。


同じように労働裁判、例えば賃金未払や不当解雇など、そうした局面でも訴訟の大半が従業員側に有利になっています。すなわち弱い立場の個人や従業員が守られている傾向が絶対的にあるわけです。ところが、そのように頭でわかっていても労使交渉で厳しい圧力を受け、特に現在の職場から冷たい視線にさらされると、心細い思いをされる方が多いのだろうと思います。こうした場合は専門家に相談するのが解決への早道で、私たちTESCOのエージェントや、労働法に詳しい弁護士に声を掛けるのが最善の道でしょう。


この問題で留意したい点がひとつあります。手厚く保護されるのは従業員の立場であって、上級管理職や、その上をいく取締役以上になると全く別の問題になるということです。すなわち労働三法の枠外にいる方々、雇用保険の適用外の方々、委任を受けて役職についている方々などは、めでたく競合企業に移籍できるとは限りません。どこかの社長がヘッドハンティングされたとして、極めて近い競業の社長に就任するのは無効とされた判決が過去にたびたび存在します。取締役以上になると株主などステークホルダーの利害にもさらされることになります。これは憲法の規定の範囲とは一概に言えません。


さて、上級役員や取締役以上が同業他社に転職できないのは致し方ないとして、実は従業員の立場でも競業への転職が差し止められる場合があります。裁判になっても企業側が引き下がらず、まるで従業員を抑え込むかのように競業避止へ誘導するケースがあるのです。それは一体どういう場合なのでしょうか。そして、その時、企業や従業員は係争においてどのような落としどころを見つけるのでしょうか。次回はそのケースについてご紹介します。

(続く)