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社 長 コ ラ ムCOLUMN

第60回
2021.12.28

裁判所も認める競業避止の例外

従業員の競合企業(同業他社)への転職を容易に認めたくないのは使用者にとって当然のことといえます。しかし日本は法治国家で、憲法には「職業選択の自由」があり、それが大原則としてすべての法令に優先します。したがって競業避止という条件を前提とした雇用関係であっても、最終的には裁判で従業員の競業への転職は認められることが多く、結果的に従業員が保護されているということを前回ご説明しました。


ところが、例外的に裁判で企業側が最後まで引き下がらず、徹底的な係争になる場合があります。それは、その企業が国家の機密事項や軍事情報に関与しているケースです。その場合では裁判所の判決が明らかに国家寄りになることがあります。特に軍事技術を取り扱っている企業は人事面を厳しく管理し、競業企業や外国企業への技術移転を阻止するために、神経質にならざるを得ません。そうした背景で、技術者の転職にあたって裁判で使用者側が有利になることがあります。これは例外的なケースとして知っておくべきでしょう。


このような国家機密や軍事技術に関係する企業では、使用者と従業員の間で一般からすると信じられないような競業避止の取り決めが交わされています。例えば入社時に10頁以上ある分厚い競業避止や機密保持の書面にサインしているような場合、従業員はその時点から留意するべきでしょう。ある企業が憲法の職業選択の自由を強く主張し、同業他社の転職希望者を募り、それに呼応した人を雇用したことがあります。しかし、これまで雇用していた企業がその従業員の転職をかたくなに拒み、裁判に持ち込まれることになりました。TESCOはこのような係争の仲裁案として次のような論理を展開しました。


従業員が競業企業に転職できないということになると、これまで蓄積してきた経験や実績を生かした個人のキャリアを使ってはいけないということになります。そうなると、今後その人はどのようにキャリアを積んでいけばよいのか、進退極まることになりかねません。将来ある人材の行く手が遮られたようなものです。そうなると事態は基本的人権まで及ぶ可能性があり、転職を阻止する企業も落としどころを考えなくてはなりません。裁判では「当該従業員は今後10年間、競業他社に就職してはならない。そのかわりその期間中に支給されると見なされる給与の3倍程度の補償金を企業が従業員に支払うことにより、この従業員の転職を阻止することができる」という結論になりました。現在まで培ってきたキャリアを放棄する必要がある以上、それについて賠償と生活の保証をしなければならないという裁判所の考え方は、法治国家としてバランスのとれた判断だと思います。私たちTESCOも裁判所のこうした立場を高く評価しています。ということで、この考え方が落としどころになるわけですが、同僚など現職の社員から不満が出ることは容易に想像がつきます。円満に解決するのは難しい問題だと覚悟しておくべきでしょう。


なお国家機密や軍事情報を扱う企業の、あらゆる競業避止の問題点について私たちTESCOは有効な提言をしています。対立が深刻化した場合の仲裁案の落としどころなども熟知していますので、お気軽にご相談ください。競業避止にまつわる問題解決は、個人や従業員側に対しても、企業側に対しても、この種の問題に対するスキルとノウハウを蓄積していますので、お気軽にご相談ください。


以上