転職希望者 採用応募 企業担当者様 お問合わせ
  • 転職希望者採用応募
  • 企業担当者様お問い合わせ

社 長 コ ラ ムCOLUMN

第57回
2021.11.12

動くのが億劫な“ゆでがえる”になるな

2021年9月、日経平均株価が3万円を超えました。9月の半期決算を眺めてみると堅調な会社が多いことがわかります。しかし人々の日常生活、特に賃金と主要企業の業績がリンクしない傾向は続いています。企業の好業績や株価の高騰を不思議な気持ちで眺めている方が多いはず。実感が湧かないというところでしょう。


新型コロナウイルス感染症の流行がはじまってから1年半が経過しました。10月1日には各地の緊急事態宣言や蔓延防止等重点措置も解除となり、久々に日常に近い生活が戻って来ましたが、コロナのもとで数字上の業績はよいものの、企業内部の体質はかなり弱くなってしまったと感じています。企業ばかりでなく個人も同様です。どういうことかというと、企業と従業員に距離感ができてしまったのです。これはソフト、ハードにかかわらずいえることで、1年半の間に精神面も物質面も離れてしまいました。それを元に戻す手立てが不透明で、見通しが立っていません。これが今後の大きな問題になってくるのではないかと思われます。


例えば、従業員一人ひとりのミクロなところに目を向けると、テレワーク、リモートワーク、そして出社している人も含め、何を実行し、どういう成果を出して、今後どういう方向性で仕事をしてキャリアを発展させていけばよいのか、的確につかめている管理職はほとんどいないと思います。なぜなら現状はコロナ禍を乗り越えるのに精一杯で、先の見通しまで考えられないからです。将来的なビジョンが圧倒的に不足しているのではないでしょうか。個人でも「企業がどこへ向かっているかわからない」と感じる人が多いようです。お互いが疑心暗鬼で距離が離れているのです。


そこで何が起きてくるかというと、トップが提示したビジョンに向かって、全員が強い牽引力でベクトルを合わせて前進しているかどうかわからなくなってきます。これまではコロナ禍が深刻だったため、まずテーマになったのが「感染してはいけない」ということでした。感染すると職場や家庭にウイルスを拡散するので、何よりも「感染しないこと」が優先事項だったのです。目標は業績の数字ではなく感染しないこと。この現状に危機感を持つ経営者は多く、何とか打開したいと思っていました。しかし業績を追求することが悪のように思われ、手が出せなかったというのが実情ではないでしょうか。最近、足腰が衰えてしまった個人から、過剰なまでの感染防止体制や、在宅勤務の有効性が喧伝され、元に戻るのを妨害するような論調が出てきていることが気になります。極端に言えば「元に戻すのは悪だ」という主張です。


会社と従業員の双方に行き過ぎた主張があると、それが双方を弱体化させます。何が起きているか気づかないことも多いのではないでしょうか。ここで思い出すのがよく知られる“ゆでがえる”の寓話です。かえるを熱いお湯の中に入れるとびっくりして飛び出して助かるけれども、水に入れてゆっくり加熱していくと逃げ出さずに死んでしまうという話です。また10年ほど前にブームになった「チーズはどこに消えた」という本も変化への対応について教訓を与えてくれました。会社と従業員にも、これらの教訓が必要だと思います。コロナ禍でコミュニケーションをはじめとするいろいろな力が弱くなっていることに気づいていないからです。


東京エグゼクティブ・サーチの業績はおかげさまで順調ですが、私は前述のようなメッセージを従業員に伝え、緊急事態宣言の解除以降は以前の状態に戻してコミュニケーションを活発にしたいと宣言しました。ステイホームが長くなると動くことを億劫に感じてしまいます。フットワークが致命的になる前に一旦元に戻すのです。ハードワークのなかで活用するリモートワークは効果的だと思いますが、リモートワークが主となった後のハードワークは企業の体質を弱くすると思います。経営者はそのような危機感を持つ必要があるのではないでしょうか。“ゆでがえる”になる前にご一緒に飛び出しましょう。