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社 長 コ ラ ムCOLUMN

第56回
2021.11.02

定年制はこれからどうなる

ある著名な経営者が経済団体のセミナーで「45歳定年制」に触れ、大きな話題になりました。どのような趣旨で出た話かわかりませんが、おそらく観測衛星を打ち上げたのだろうと思います。終身雇用という概念は過去のものになりましたが、定年制という言葉はよく耳にします。年金支給年齢の引き上げが、この10年ほどホットな話題になっていて、それにリンクしているからでしょう。70歳まで働きましょうという啓蒙が政府からなされていることもあり、定年の延長は社会に受け入れられつつあります。健康寿命が長くなっていること、年金の支給開始が段階的に引き延ばされていることもあり、65歳定年制の会社を多く見かけるようになりました。実際は60歳で定年とし、以後5年間は嘱託勤務という形が多いようですが、定年を65歳とする会社も着実に増えてきています。その一方で役職定年となると、むしろ低年齢化しているケースが多く見られます。企業のいろいろなところでレバレッジが大きくなっている印象があります。


まず前提として、定年制の価値は過去に機能していた終身雇用、年功序列、労働組合という日本的経営の「三種の神器」が元となって生み出されたものです。若いときに安い賃金で多くの仕事をしてもらい、そのかわり管理職になればそれほど高い生産性を求めることがなくなります。若いときに働いた分は、役職につくことで高い賃金として支払われ、辻褄を合わせます。退職金の支給率をグラフにすると定年前10年くらいで急上昇するのが典型的なパターンでした。


高度経済成長の時代、すなわち少子高齢社会ではない時代は、会社を辞められると人材の補充がすぐ出来ませんでした。いかに社員をやめさせないかという視点で人事は動きました。しかし現在、経営者側の発想は正反対です。企業文化が変わったことで既存の制度はまったく機能しなくなりました。とはいえ定年制は従業員の権益の重要な要素ですから、急激に変化させることは難しく、いびつな状態で残っています。それが経年劣化を起こして維持できなくなり、定年制にまつわる議論が起きてくるのです。


企業は「定年制を維持する~したい~目標にする」というメッセージを、求職者を含むステークホルダーに発信しています。が、おそらく「維持したくてもできなくなる」と私は考えています。つまり定年制は掛け声と矛盾して消滅する可能性が高いということです。これも私見ですが、最近、個人も企業も体質が弱くなってきています。もちろん国力自体が低下しているということがありますが、働く側は将来への不安を抱え、企業側も見通しが立たずに、双方が疑心暗鬼になっています。企業は少子高齢時代の人材獲得合戦を勝ち抜くために、安心、安全、快適な職場環境をアピールしなければなりません。もちろん長く勤められる会社であることを誇示します。


働く側にしても10%から20%くらい引き合いを多くもらえたり、副業で高度な仕事を兼務したり、キャリアを発展させていくことができる、いわゆるマーケットバリューの高い人材がいますが、全員がそうなれるわけではありません。うまく成果を出せなかった人は、今までのように制度に守られて雇用が維持されるということはないでしょう。大多数の社員は「定年制は安心できるからあったほうがよい」と言います。企業はそれを逆手に取って「当社は長く働ける」とPRし、制度を維持することになります。目標としてそれを掲げるのはよいとしても、なかなか実現は難しいでしょう。議会が議員定数を削減すると宣言しても、いつしかうやむやになってしまうようなものです。定年制は掛け声だけで、いつしか消えていくに違いありません。


私が思うに、企業が定年制を維持するのは無理です。それだけの余力がなくなってきています。新卒で入社した人の3割が3年以内に何らかの理由で退職しているというデータがあります。これでは定年制自体に意味がありません。中途入社の人に「長く働ける」というのは響きがよいですが、40歳以上の人材を中途採用したときに定年制を打ち出してしまうと、ローパフォーマーを獲得してしまったときに、企業はそれを放出しにくくなります。できれば定年制は破棄したいというのが本音ではないでしょうか。ただし定年制廃止を率先して言うと社会から攻撃にさらされがちなので、まずは会社が定年制を維持できる体力を持っていることや、確かな成長性を持っていることをアピールします。しかし「定年制を維持したかったが競争環境が厳しくなったので意に添えない」となり、いつの間にか「なかったこと」になっていくのではないでしょうか。求職者側の観点と経営側の本音の部分で、これから摩擦が起きてくるのではないかと注目しているところです。