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社 長 コ ラ ムCOLUMN

第68回
2022.05.13

医師のヘッドハンティング事情

私ども東京エグゼクティブ・サーチ(TESCO)のコンサルタントやスタッフがヘッドハンティングでお付き合いする方々のなかに医師のフィールドがあります。TESCOは日本で最初に医師の紹介を始めた歴史を持っており、これまで多くの医療従事者と医療機関に貢献してきました。医師のみなさまは独創的でユニークな世界観をお持ちの方が多く、人材紹介においても学ぶことが多いと感じています。


医師や看護師は大都市圏で充足しており、むしろ余っている状態です。しかし地方に行けば行くほど、深刻な人材難に直面しています。特に深刻な医師不足は次のような診療科目で顕著です。
(1)救命救急医療 (2)小児科 (3)循環器科 (4)呼吸器科 (5)麻酔科
これらのカテゴリーについては、地方都市の医療機関からよくご相談をいただきます。


医師のヘッドハンティングには特殊性があります。それは「カネを積めば解決」という金銭交渉ではないことです。いくら高い報酬を提示しても医師は来てくれません。医師を招くのに大事なのは「この病院なら働いてみたい」と思わせること。これが一般企業のヘッドハンティングと大きく違う要素です。

医師の評価基準としては医療行為以外に、ヒューマニズムにあふれていることや学問的業績があることが重視されます。現在の傾向はインフォームドコンセントやセカンドオピニオンなど患者の権利意識の向上もあり、医師には優れたコミュニケーションスキルが求められています。医師免許と経歴があればよいという時代はとっくに終わりました。ヘッドハンティングでアプローチを受ける医師も、金銭的条件で動く人は少数派です。医師はもともと高収入なので、金銭以外の希望を重視するのです。


先に挙げた5つの診療科が医師不足なのは、それぞれ理由があります。救命救急医療では医師が苛酷な勤務になりがちで、患者も重篤の場合が多く、相当のプロ意識と知見と体力が必要です。患者が運ばれてくればどんなに疲れていても対応しなければならず、勤務時間が終わったからといって帰宅できません。ここで医師が望むのは金銭ではなく、交代できる医師や救命救急医療の環境整備です。医師のヘッドハンティングにおいては、その医療機関が医療についてどう考えているかが大変重要視されます。


小児科と産婦人科は少子化や医療過誤の問題があり、過激な親も多いため敬遠されがちです。循環器科や呼吸器科は扱う患者の幅広さと医師の専門性に課題があります。麻酔科医は全身医療に詳しく、問題が起きたときに対処できるため、各科の医師から頼られますが、浅く広く豊富な知識が必要なため不足ぎみです。その反面、精神科や心療内科は夜勤なし、手術なし、治療はほとんど投薬で済むため人気があるというのが実情です。


医師を採用する医療機関側は地域医療の現場で医師が不足すると、それを解消するために自治体の税金を投入し、極端な場合は倍以上の報酬を用意して求人活動をします。しかし5年経っても採用できない例も見られます。これは医療機関に医師とのミスマッチがあるからです。採用する側とされる側のミスマッチを医療機関が掴めていないのが問題です。ヘッドハンターの立場でアドバイスするなら「医療機関のトップは医師のリクルーティングの際に自ら病院経営の哲学を語り、医療の理念や環境整備を具体化する行動力を見せましょう」ということになります。


多くの医師は帰宅後に勉強する時間が欲しいと思っています。診察で分からなかったことや気になったことを調べて探求したいという気持ちがあるからです。これは医師としてのモラルといえるでしょう。過酷な現場で、そうした時間が確保できないとすれば問題です。医療機関のトップがどういう方針で経営に当たっているか、よい医師ほどそれを重視する傾向があります。医師のヘッドハンティングは、こうした特殊事情に配慮しながら進めます。


以上