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社 長 コ ラ ムCOLUMN

第54回
2021.09.29

直筆で手紙を書いてみよう

ヘッドハンティングの現場において欠かせないツールのひとつが手紙ですが、最近はメールが普及して便利になりました。メールの最大のメリットは、送る側も受け取る側も基本的に気軽だということです。メールを受信しても興味がなければ削除すれば済みます。送り手はその気になれば短時間で多くの人に送信できるので、デジタルな方向に流れてしまうのも致し方ないかもしれません。しかし、純度の高い原理原則が生きているヘッドハンティングの現場では「感動」というキーワードが欠かせません。それは演出ということだけでなく、企業が本当にその人を迎えたいという情熱から生まれます。「こういう人」ではなく「この人」を迎えたいというとき、本人に「特別にお誘いしている」という熱意を、親しみを持って伝えなくてはなりません。「感動」は感じて動くということ。気持ちを伝えるなら、過剰になってもいけませんが、ある程度、非日常的な工夫があったほうが受け取る側はうれしいものだと思います。


そこで東京エグゼクティブ・サーチは、ここぞというスカウトの際に、直筆の手紙を活用するようにしています。読者のみなさまは誰かからビジネスレターを受け取ったことがあるでしょうか。いまは代筆やライティングサービスの業者もいるようですし、印刷技術の発達でまるで筆で書いたような手紙が作成できるようになりました。しかし私はコンサルタント一人ひとりに万年筆を握らせ、直筆で書くことを推奨しています。差し上げる手紙の便箋枚数は最低5枚ほど。一般的なスカウトは自社紹介、興味を示している企業の少しぼかした概要、そして連絡先を書いて「興味があればご返信ください」と締めくくります。しかし私どもはお誘いしている企業の経営者からのメッセージを伝言の形でお預かりし、書ける範囲で代筆し、便箋にしたためることを大切にしています。


ところが若いコンサルタントたちに手紙の書き方を指導していると、日本語能力の低下を実感せざるを得ません。ある日、社員と話をしていて登山の話になりました。山の自然は美しいが厳しいという話のなかで「峻烈」という言葉を使うと、彼は「しゅんれつ」について、書けず、読めず、聞いたこともない言葉だと言いました。こうした難解な言葉は日常的に使わないまでもボキャブラリーとして身につけておくべきでしょう。私たちはいろいろな世代、いろいろな立場の方と接するからです。言葉はビジネスにおける武器になると心得ておくべきです。


美しい日本語の使い方と、手紙のマナーの指導では苦労があります。私はヘッドハンティングの決め手は高い日本語能力と文章力だと思っています。能力のひとつとして「難しい内容を簡潔な言葉に置き換え、わかりやすく伝える」ということがあります。その上で人に感動やワクワク感を与えるようなメッセージを送ることが大事です。話せること、書けること、それが基本。手紙は重要感のあるツールなので、いつも書く技術を向上させるよう研鑽したいものです。手紙を書くという、手間も暇も掛かる作業を負荷なくこなすために、普段から文章力を磨き続けるべきです。


私がいつもコンサルタントたちに指導しているのは、1つめに「ビジネス書をたくさん読んで先端用語に慣れておきなさい」ということ。2つめに「新聞の見出しをよく読んで、結論を短い言葉で表現する訓練をしなさい」ということ。3つめに「旧き佳き日本の小説をよく読みなさい」ということです。サーチコンサルタントは日本語能力を高め、自分の気持ちが相手に伝わるように、相手が感じて動いてくれるように、全身全霊で努めなければなりません。他の職業の方も、上手でなくてもよいので、直筆の手紙をていねいに書いてみることをおすすめします。そこから何かがはじまるはずです。