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社 長 コ ラ ムCOLUMN

第42回
2020.09.11

コロナで労使の対立が激化する可能性

新型コロナウイルス感染症は日本経済の動向に大きな影響を与えています。政府が8月に発表した2020年4~6月期GDP速報では、GDP成長率が年率でマイナス27.8%となりました。これまで最大だったリーマンショック直後2009年1~3月期の年率はマイナス17.8%でしたから、これを大きく上回っています。
 
ここで気になるのは、雇用や人件費にどのような影響が出てくるかという点です。日本の労使関係はこのところ平穏で、労使協調といえる状態でした。しかしこれだけ景気が急激に悪化し、追いかけるように雇用調整やリストラがはじまれば「貧すれば鈍する」で対立の火種になる可能性があります。労使で分け合って食べていたパイが急に小さくなるわけですから、対立が激化しやすいわけです。
 
日本の経済を支えている中小企業、なかでも雇用の約40%をまかなっている製造業は大きな存在です。職人とかマイスターとか称賛されて腕一本でどこでも生きていける人材は「会社がダメになれば辞めて一人で生きていく」ということができます。しかし製造業のなかでもそういう特別な人材は少なく、もし製造業が持ちこたえられなくなると深刻なことになるはずです。製造業は国民の安定的な雇用に貢献しているという意味では非常に大きな役割を持っています。全員が大学卒なわけでもなく、全員が専門家というわけでもありません。地道に真面目に労働力を提供して暮らしている人がたくさんいるのです。
 
ところが、モノが売れなくなると生産現場では減産がはじまります。その業界は「右へならえ」となり全体的に縮小してしまいます。消費者がモノやサービスを必要としなくなれば(我慢することもあれば物欲がない場合もあり)、その後は暮らしを豊かにするニッチな業界が脚光を浴びるようになります。
 
しかし、そうした業界にとって多くの従業員を雇用することは荷が重いものです。起業家やベンチャー企業に頼った新しいビジネスだけで日本を養うことは難しいでしょう。このような危機的な状況は国が対応をグランドデザインする領域で、むしろ政治がリードしなくてはならない局面です。これから観察すべきことは、かつて重厚長大産業と呼ばれた歴史と伝統のある大企業が滅亡していくのか、それともITやAIを活用して少ない資本で少しでも多くの対価を得ようとするスタンスに進化していくのかということ。コロナウイルスによって伝統的な企業と革新的な企業の明確化が迫られているのかもしれません。
 
コロナ禍のもとでは、ゲーム、コミック、デリバリーなど、人々の「巣ごもり需要」を満たす企業に追い風が吹きました。いろいろなサービスが生まれていますが、スマホと自転車を利用して近くにいるスタッフが飲食店から消費者へ料理をデリバリーするウーバーイーツなどは典型的な成功例でしょう。こうした画期的な発想のもと、ITとアナログを組み合わせるような試みには追い風が吹いています。
 
一方で外食、観光、交通などの分野には壊滅的な逆風が吹きました。このようにコロナ禍は勝ち組と負け組の分断を明確化してきています。基幹産業においても新しい発想を柔軟に取り入れていかないと、ウィズ・コロナの時代に衰退していくことになるでしょう。その過程で労使の対立が起きてくることは目に見えて明らかです。その影響が私たちの人材ビジネスにどう波及してくるか、もうしばらく注視したいと思います。
 
 
【お知らせ】
福留拓人のインタビューが2020年11月2日発行の日本経済新聞「私の道しるべ」に掲載される予定です。秋以降に予想される本格的なリストラや雇用調整を取り上げ、人材ビジネスの専門家として持論を展開します。ぜひご一読ください。