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社 長 コ ラ ムCOLUMN

第39回
2020.08.17

地銀が人材紹介事業に参入する理由

2019年12月8日の日経新聞朝刊に「人材紹介 地銀に報酬」という見出しの記事が掲載されました。その内容は、政府が地方銀行による地域企業への人材紹介事業を支援するというもので、2020年春を目途に、マッチングに成功した地銀に1件100万円の報酬を拠出するというものでした。
 
地銀が人材紹介事業に乗り出す背景は、地方創生を掲げる政府と、地銀の将来に懸念を持つ金融庁の意向があります。というのも、地方の中小企業の68%は後継者がいないといわれており、近い将来、転廃業が頻発する可能性があるからです。そうなると地銀にとっては本業での業績悪化につながります。
 
人口減少社会となったわが国では、ヒト、モノ、カネの東京一極集中が進み、企業が地方から東京へと流出している現実があります。そして地銀を管轄する金融庁は地銀の存続にかなりの懸念を持っているようです。そこで浮上したのが地銀へのテコ入れであり、そのひとつが人材紹介事業の推進です。
 
この施策では驚くことに、地銀が人材紹介業に従事してマッチングが1件成立すると、金融庁が1件あたり100万円の報酬を支払うことになりました。この件ではすでに10億円という補正予算が2019年12月に国会を通過し、2020年春から施行される運びです。
地銀としても、自らの後継者問題を解決し、本業である金利収入の減少に歯止めをかけたいという希望があります。銀行業務の収益悪化が止まらない以上、別のビジネスモデルを立ち上げることで業績を補完しようと考えるのは当然のことでしょう。人材紹介事業で成功すれば、銀行の業績に貢献するとともに、中小企業や地域の活性化につながり、願ったり叶ったりといえます。
地銀は地域社会に根ざした企業と取引することで、人的ネットワークや生きた情報を得ることができます。それを活用して人材紹介業務を手掛けることは、インフラ的には面白いことだと思います。ただ気になるのは、人材紹介業は職人のような独特の能力が必要とされる業務だという点です。これまで銀行業務一筋でやってきた社員がいきなり人材紹介に従事して果たして上手くいくのか、私としてはそこに疑問が残ります。このあたりは業界でも意見が分かれているところです。
 
最近、私たち東京エグゼクティブ・サーチは、人材紹介事業に参入する予定の地銀からお問い合わせをいただくようになりました。それは「金融庁のすすめで人材紹介業務を手掛けることになったが右も左もわからない。御社の専門的なスキルやノウハウをもとにコンサルティングしてもらえないか」というようなものです。私たちとしては地方を担う地銀のお役に立てることならと喜んでお引き受けしています。コンサルの進め方としては、半年1回のセミナー形式もあれば、月1回面談の顧問的な方法もあります。こうしたコンサルの内容は一度習得してしまえば身につくものですから、永続的なお付き合いにはならないでしょうが、今回の施策は人材紹介会社にとってもささやかなビジネスになりそうです。
 
ところで人材紹介業は厚生労働省が管轄しており、その許認可事業です。現在のところ事業者は年500件のペースで増加しています。しかし許認可を取っても実際には動いていない事業者も30%ほどあるといわれています。許認可は失効がないのでフリーズしている場合でもカウントされてしまいます。私個人は経験的に見て、人材紹介は存続させることが難しい事業だと思っています。地銀を人材紹介事業に参入させるという政府、金融庁の施策が成功するか否か、しばらくは注目していきたいと思います。