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社 長 コ ラ ムCOLUMN

第28回
2019.07.05

1ドルベンチャーをご存知ですか

求職者に提示する給与は高いに越したことはありません。しかし、その一方でそこを必要以上に絞る会社が多いのも事実です。お金のことは判断が難しいところですが、固定費は下げれば下げるほどよいと思い込み、採用で過剰に値切る悪い癖がついてしまっている社長も多いのです。そしてそういう社長をトップにいただく会社からは往々にして魅力が感じられないのも皮肉なところです。
 
私が過去にお付き合いしてきた外資系アーリーステージのベンチャー企業で、年1ドルの給与提示をする企業に何回か出会ったことがあります。これはジョークでやっているのではありません。いかにもアメリカらしいと思ったのですが、1ドルベンチャーには共通しているポイントがあります。
 
共通項の1番目は、イチかバチかでありながら、各方面から大きく期待されているということです。その証拠に投資家からかなりのお金が集まっています。とはいえ1ドルベンチャーのほとんどは大赤字。私が今まで見聞したなかで一番極端だったのは、売上が月1万ドルしかないのに、経費が月500万ドルくらい出ているケースでした。ただしどこかで爆発すると非常に根幹的なイノベーションを起こす可能性があり、その革新的な技術等で投資家からお金を集めているのです。
 
共通項の2番目として、社長が「ぶっ飛んでいる」ということがあります。持っている能力や過去の経歴などが非常に優秀で、また人間的な魅力にもあふれています。
 
3番目に、1ドルベンチャーは5人から10人くらいの組織になっていることが多いのですが、この顔ぶれがずば抜けています。私が過去に出会ったベンチャーで次のような人たちがいました。社長は19歳でアメリカの大学を飛び級で卒業し、投資銀行で働いて、すでに22歳のときに年収が数億円。ベンチャーに参加したメンバーもアメリカのNASAに勤めていたとか、CIAで数学を駆使した情報解析をやっていたとか、有名なIT系メーカーでプロダクトデザインをしていたとか、そういう人たちが集まっていました。しかし1ドルベンチャーでは収入は年1ドル。ストックオプションで株式だけが支給されていました。もしうまく事業がスパークしたら、それで払うということです。全員が夢を賭けてやっているのですが、かつてはみんなどこかですごいサラリーマンだったというのが共通点です。目先のお金がなくても生きていけるだけの蓄財はあるということでしょう。
 
ただ、現実的に無収入に近い提示で人が集まるかというと集まりません。それでもやってみたいと思わせる魅力がこの社長にはあるわけです。これはたいへん極端な例ですが、この社長は投資家から調達した資金を研究開発、商品開発に使うと同時に、トップクラスの人材を採用しようとして全世界を飛び回っていました。その採用の出張費にものすごくお金をかけていたことが印象的でした。
 
このようにお金を出さなくても人が集まるベンチャーというのはあります。ただ、桁違いの人間的な魅力と夢を持っているベンチャーだということです。したがって表面的にお金をケチって、人件費を安く買いたたくということとは、根底から考えが違います。1ドルベンチャーを経営している人たちは別にケチってやっているわけではありません。お金を出さない社長たちが表面的に真似をすることではないのであしからず。これをお読みいただいている読者のみなさん、あなたの会社の社長には夢を持った人材が年1ドルで来てくれるような魅力があるかどうかを考えてみてください。安く人を採ることがいかに難しいか想像がつくのではないでしょうか。
 
さて気になる1ドルベンチャーの行く末についてお話ししておきましょう。私の知る1ドルベンチャーでスパークした企業はたったの1社。あとはすべて成果を上げられませんでした。いま現在もアメリカには1ドルベンチャーは存在します。従業員に1ドル提示、CEOに1ドル提示の会社もあります。ただ「株価上昇率でこれだけ払います」というインセンティブがこまかく設定されています。このあたりが日本と違うところです。
 
最後に、1ドルという金額がどこから来ているかというと、それはM&Aに由来します。企業買収の際に資産価値のない会社の算定を1ドルとします。それが金融界の通例で、これが1ドルベンチャーの起源になっていると思われます。アメリカの商法で0は認められておらず、この際0と1は違うということを考えてみるのも面白いかもしれません。