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社 長 コ ラ ムCOLUMN

第49回
2021.07.07

本当にあった「人材紹介」トラブル集(1) 英語力詐称

東京エグゼクティブ・サーチ株式会社は、その名のとおり経営者、役員、研究者などエグゼクティブの人材紹介に取り組んでいる会社です。業務上、これまでいろいろなトラブルに巻き込まれたことがあります。その経験も読者のみなさまの参考になるかと思い、特に印象的だったトラブルをいくつかピックアップしてご紹介いたします。
東京エグゼクティブ・サーチは、BtoB(対企業)とBtoC(対候補者)の両方の立場で人材紹介について折衝を行います。その過程で予期せぬトラブルが発生し、企業や候補者に不利益をもたらすことがあります。最悪の場合、企業は信用を失墜し、候補者はキャリアを台無しにしてしまうこともありえます。こうしたトラブルを知っておけば「備えあれば憂いなし」で最悪の事態は避けられるかもしれません。


最初にご紹介するのは、候補者が自分の英語力を詐称したケースです。ヨーロッパに拠点を置いて事業を展開する某企業が、北欧にある工場のトップ(工場長)を求めていました。そのポジションは、製品の知識があり、技術面を理解し、品質保証を行い、現地法人との商談などを兼務する必要がありました。さらに、その企業は日系企業に製品を納品していたため、日本人をトップに招きたいということでサーチを行っていました。そこで私どもTESCOにお声掛けいただいたというわけです。私どもは数名の候補者を選定し、ある人物(仮称A氏)が有力な候補者として浮上しました。
この工場における現地従業員は、全員が英語でコミュニケーションを取っており、トップにもネイティブレベルの英語力が必要とされていました。自己申告によればA氏は海外の大学を卒業しており、TOEICについては970というスコア票を提示していました。ところがいざ工場長として現地に赴任すると、その英語力が全く通用しないことがわかりました。その結果、入社1か月で解雇されるという事態になったのです。なぜそういうことが起きたのかといえば、A氏の経歴が素晴らしく、製品に対する知識や、ものづくりに対する理解が深く、工場長としての能力が稀有に見えたため、企業側は「この人材が欲しい」という気持ちが先行し、英語力のチェックがおろそかになったということが挙げられます。もちろん英語の面接も行われましたが、インターネットでつないだオンライン面接だったこともあり、審査は通り一遍のものとなったようです。企業担当者もTESCOのコンサルタントも、抜き打ちチェックまではしておらず、その意味では調査が不充分だったといえるかもしれません。企業側としては「恋は盲目」状態で採用してしまったのです。のちに判明したことですが、A氏のTOEICのスコア票は偽造されたものでした。読者のみなさまは、英語力がないのに海外赴任の職に就くなど、ありえないことだと首を傾げることでしょう。その点ではやはり、よろしくないことをされる人物の心理状態というのはなかなか理解しがたいものがあります。


ちなみに昨今では英語力のチェックというのは外資系の企業などではめずらしくなくなっています。以前はTOEICのスコアが海外赴任をさせるか、させないかのものさしに使われていましたが、最近はエージェントによる抜き打ちチェックなどが恒常的に行われるようになっています。わが国ではおおむねTOEICが800以上で海外赴任の対象になるといわれています。しかし、スコアで切っているために会話力と一致しない現実もあります。もしもこれから読者のみなさまが転職活動をされる場合は、英語力については風呂敷を広げず、「ここまでは話せる、これ以上は話せない」という等身大の能力を見せておくべきだと思います。