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社 長 コ ラ ムCOLUMN

第50回
2021.08.11

コロナ禍で二極化が進む人材市場

新型コロナウイルス感染症の流行が1年半ほど続いています。世の中のありさまは言うに及ばず大きく変化してしまいました。私たちの採用市場でも、この半年くらいは大きな変化が見受けられるようになりました。それは以前から指摘してきたように「二極化」が進んだということです。実は人材市場の現状は意外なことに好景気になっています。すなわち人材を求める会社からの引き合いが増加し、採用件数も、単価も、上昇傾向にあるのです。世間のコロナ禍における状況とベクトルが逆なので不思議に思われますが、これは事実です。


どういうことかというと、企業業績の二極化が一段と顕著になってきているのです。コロナ禍で経営体質を強化できずに四苦八苦している企業が増えた一方で、コロナ禍を追い風にして空前の好業績を上げている会社もあるのです。その業績を上げた成長企業が「ここが伸ばしどころ」ということで、平時よりも設備投資にかなり力を入れています。そのせいで設備関連の採用はデフレ傾向になっているのですが、人材市場も売り手市場が進んできて、かなりインフレーションを起こしている状態です。これは私たちが1年前に予測したよりも顕著に進んでおり、ここにきて二極化という現象が現れてきたのです。
私たちサーチ会社に求められる基準もかなり変わってきました。これまでこのコラムで似たような話題に触れていますが、具体的に言うと、よく知られているビズリーチというウェブ媒体を筆頭に、リクルートなど大手が運営する「求職者のデータベース」が影響しています。こうしたデータベースは、もともと企業が自社で使うために開発したものだったのですが、開放されて利用料金や成功報酬を徴収するかたちで、人材会社やリファーラル採用を進める事業会社に幅広く採用されています。この媒体の力がこの1年くらい加速度的に強くなっています。


現在、人材市場で好業績を上げているのは、こういうデータベースに類似したものを自社の投資や創意工夫で完成させた会社です。彼らは自社のデータベースを存分に駆使し、空前の好業績を上げています。そういう状況下で、自社媒体を持つほどの経営資源は持たないものの、こうした媒体を存分に活用し、業績を上げていくケースが見られるようになりました。すなわち、今はデータベースで勝負する時代になっているのです。
むかしヘッドハンティングに求められていたサービスの基準は、「優秀な人材を探してほしい」というものでした。たとえば「図抜けて優秀なAさんを探してほしい」という依頼です。ところが現在、私たちに求められているのは「ビズリーチなどのメディアに一切登録していない人でリストを作ってくれ」というものです。
このように人材データベースを提供するメディアの力が強大になってきて、これまで登録しなかった人たちさえも集客する力を持ちはじめています。自分でそういうデータベースに登録するということに、人々がポジティブになってきているのです。例えばビズリーチに優秀なAさんが登録していたとします。この「ある程度優秀と思われるAさん」にビズリーチ上で、人材紹介会社とリファーラル採用を行っている事業会社のオファーが殺到しています。Aさんには30社ほどの引き合いが寄せられます。そうなると売り手市場の最たるもので、言わばハイパーインフレになります。
ここで注目したいのは、企業からするとAさん本人かAさんに匹敵する人でなければ、獲得する意味がないと考えていることです。だからAさんにオファーが殺到するわけですが、冷静に考えてみると、ここではAさんにキャスティングボードが握られているので「Aさんに選んでもらえないと、企業は採用ができない」ということになります。むかしのように採用基準をゆるめて他の人材で妥協するということは、この数年行われなくなってきています。あくまでもAさんに対するこだわりが強いのです。企業からするとAさんには30社ほどの企業が殺到しているので、獲得競争に勝ち残れるかどうかはわかりません。全力を注いで良い条件を用意し、説得力のある面談をしたとしても、振り向いてもらえないケースが多くなっています。つまり、各社の採用基準が「上がった」プラス「類似している」ということなのです。


最近は企業の採用基準にオリジナリティがなく、能力、スキル等の高止まりで、傾向が似てきています。「ウチはAさんを採れないからこっち路線にしよう」という選択肢がありません。全社がAさんを採ろうとして単一化しています。そこで企業はある日「Aさんを何か月も何年も追いかけても、採用の不確実性が高い」と気がつくわけです。その時、彼らは「なるほど、AさんはビズリーチやSNSに登録してネットに露出しているから、目について多くの企業が採用に殺到してしまったのだ」と考えたのです。
以前はSNSに登録したくらいでは、企業は個人の動静を把握できませんでした。ところが最近はシステムが進化し、SNSに登場しているだけでも発見されてしまいます。インスタグラムに投稿しただけでスカウトが飛んでくるような時代です。企業はAさんだけ狙っていると獲得合戦に勝ち抜けません。しかしAさんより水準を落としたら、採用基準を下回ってしまいます。どうしたらこの事態を打開できるのでしょうか。(次回へつづく)