社 長 コ ラ ムCOLUMN
本当にあった「人材紹介」トラブル集 学歴詐称
私ども人材紹介エージェントがよく出会うトラブルは、経歴詐称によるものです。これは微細なもの、悪気のないものを含めると、10人に1人くらいの割合で起きているのではないでしょうか。
微細なもの、悪気のないものの代表的なケースは、以前このコラムでもお話しした、履歴書に書かれた過去の会社在籍期間の記載ミスです。例えば履歴書には試用期間のみで退社した場合も記載しなくてはなりません。どうせわからないのだから職歴として書かなくてもよいだろうと思いがちですが、次の就職先で社会保険等の加入履歴を見れば一目瞭然です。私どもTESCOでは、過去の勤務経歴については試用期間だけで退職した場合でもきちんと履歴書に記載するよう注意を喚起しています。こうした悪気のないケースはまだ許容できる範囲内ですが、経歴詐称はそればかりではありません。
経歴詐称で最も深刻なものに学歴の詐称があります。私どもが遭遇した事案で印象的だったケースは、ある外資系大手食品メーカーの日本法人でのトップレベル人事でサーチを手掛けたときのことです。その際に絞り込まれた候補者(仮称B氏)は学歴も職歴もすばらしいものでした。約20名の候補者から最終候補者に残り、オファー順の1位になりました。B氏はアメリカで伝統ある私立大学8校からなるアイビーリーグのひとつを卒業し、MBAを取得しているとのことで、提出された書類には卒業証明書が添付されていました。B氏は人事の面接や本国トップのカンファレンスもクリアして採用が決定しました。この段階では誰も見抜けなかったのですが、B氏は悪質な経歴詐称(学歴詐称)に手を染めていたのです。それが露見した経緯は次のようなものでした。
B氏を採用した会社は社内に着任のリリースを流しました。するとある部署の一般従業員から「私は同じ時期に同じ大学院に在籍していたが、B氏の名前はなかった」という内部通告があり、それがボトムアップで人事部に上がってきました。日本人のMBAは最盛期には毎年20名ほど出ていましたが、その後は数名に留まっています。普通はお互いの面識もあり、卒業生は世界中から同窓会に集まるような結束の強さがあるので、この件は不審に思われました。その通告を受けてクライアント企業がTESCOに打診してきたため、事の真偽を調査することになりました。この事案は今から15年ほど前のことで、当時はアメリカでもまだ個人情報保護にゆるいところがあり、私が身分を証明した上で大学院に照会したところ「この人物は在籍も卒業もしていない」との回答が得られました。
そこでB氏を呼んで問い質したところ、学歴詐称の事実を認めたため、内定していた採用は取り消されました。私どもTESCOは急遽、リストアップされていた第2、第3の候補者をクライアント企業に紹介することで事なきを得ました。B氏はそれまで輝かしいキャリアのある人物として知られていましたが、この出来事が知られたことで、エグゼクティブとしての命脈を絶たれることとなりました。
この事案でもそうでしたが、履歴書や職務経歴書の記載事項を故意に偽る人は巧妙で、部分的にしか嘘をつきません。5項目のうち4項目は事実で、1項目だけ嘘が忍ばせてあるといった場合が多いのです。採用を担当する人事のみなさまにはよくよく注意していただきたいと思います。特に「英語力」と「海外大学卒業」については慎重にチェックすることをおすすめします。学歴詐称の半分は海外の大学名を利用したものといわれています。また経歴があまりに素晴らしいと、そちらに注意を引かれてしまい、他のチェックが甘くなることもあります。エグゼクティブの採用においては、そうした落とし穴に足を取られないよう気をつけたいものです。