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社 長 コ ラ ムCOLUMN

第31回
2019.11.15

学歴にまつわる経歴詐称

私たち人材コンサルタントがよく遭遇するのが学歴の詐称です。これはたいへん残念なことですが、かなりよく見かけます。読者のなかにも海外留学されていた方がいらっしゃるかもしれませんが、確率的に最も多い学歴詐称は海外の大学を卒業した場合に見られます。新卒採用では卒業証明書を提出することが多いのであまり問題になりませんが、中途採用の場合は学歴証明書の提示を求められることは少ないと思います。そして総合大学などは在籍人数が多いですから、正確にその人物が卒業しているかどうかという確認はよほど専門的な学部でなければスルーされがちです。特に海外の大学は正規留学していてもトランスファーという大学間での移動が多く行われるため、そこに在籍はしているけれども最終的な卒業については把握しきれていないケースが多いのです。有名大学で日本人留学生が存在していない場合もありますから、私たちがその信憑性についてきちんと裏を取るのは難しく、その辺が海外の大学名を使った悪質な経歴詐称に結びつくようです。一時マスコミで騒がれましたが、ディプロマという学位や卒業証明書を売り買いしているビジネスがあります。これが関与すると経歴詐称はさらに見つけにくくなります。
 
私は現場でプレイヤーだった頃、上級管理職をサーチする場合は、海外の該当する大学に通う学生にコンタクトし、エージェントであると身分を明らかにした上で、対象人物が本当に卒業していたかどうかの確認を取っていました。それでも、そうした確認作業をすり抜ける例もあります。ここでひとつ失敗のエピソードをご紹介しておきましょう。世界有数の某外資系消費財メーカーの日本における社長を探すプロジェクトにおいて、私たちが絞り込み、会社と入社合意を得た最終候補者がいました。この方は経歴にいわゆるアイビーリーグのひとつである大学院のMBAを取得しているという記載がありました。経歴も美しく、英語力も非常に高く、そのままネイティブの前に出しても大丈夫だということだったので、私たちも何の疑いも持ちませんでした。ところが入社合意が取り交わされた後になって「この年次にそういう方は存在していなかったのではないか」という声が寄せられたのです。なんと採用企業の社員に同じ大学院の卒業生がいて、疑義が出たのです。念のため調べたほうがよいだろうということになり、調査の指示が私のもとに舞い込んできました。先ほどの例に倣って、私がそのアイビーリーグの大学院に確認したところ、その年次にそのような人物は存在していないということが発覚しました。その方は当然ながら入社合意を取り消され、私も著しく信用を棄損したという苦い思い出があります。
 
このようなエグゼクティブポジションというのは、人材紹介市場であまり見かけることがないレアなケースかもしれませんが、このように経歴詐称に対しての確認、調査、監視が行われる可能性があるので、常に自分自身についての正しい経歴をプレゼンテーションするよう心がけたいものです。
 
余談ですが、珍しいケースをひとつご紹介しておきましょう。実は大卒なのに高卒と書く経歴詐称があります。これはバスの運転士など現業のケースで実際に目にしました。職種によっては高卒でないと応募資格がないというケースがあるのです。どうしてもそこで働きたいということで学歴を偽るわけです。これは「逆経歴詐称」とでもいうべきでしょうが、立派な経歴詐称になります。
 
さて、経歴詐称の動機ですが、魅力的なポジションや人生のチャンスと感じられるようなポジションは、毎年のように遭遇するのではなく、誰もが千載一遇で遭遇するものなので、どうしても自分を良く見せよう、大きく見せようという意識が働くのかもしれません。そこで行き過ぎた行動をしてしまう人はいつの時代にも見られると思います。また、学歴コンプレックスが経歴詐称の原因になる方もいらっしゃいます。私たちは学閥や大学のランクでその人の能力が決まるわけではないということをあまた見てきているわけですが、たたき上げの方の場合、ご本人からすると周囲に高学歴の方々が揃っているので、どうしてもまわりと比較してしまい、コンプレックスを感じて経歴詐称に走ってしまうケースがあります。私たちが見ると、たたき上げの方がそこまで上り詰めているのは素晴らしいことなのですけれども、実に残念なことです。
 
日本の一部の大企業では今も学閥が存在しているところがあります。一方で外国の大企業では学歴が可視化されていないところもあります。ですから外資の社長には日本の一般大学卒業の方が意外と多かったりします。ところが学歴に自信のない経営者はグローバルな世界に出ると引け目を感じてしまうことが多いようです。こうしたことも経歴詐称に走らせる原因になります。読者のみなさんがもし国内外を問わず転職活動をなさることがあれば、以上に述べたような経歴詐称は絶対にせず、正確な学歴や職歴を記載していただくことをおすすめします。