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社 長 コ ラ ムCOLUMN

第111回
2025.12.22

そもそも「キャリア」とは

ビジネスパーソンである以上、常にキャリアアップを図るべきだという風潮が巷には浸透していますが、ちょっと立ち止まって考えてみたいと思います。そう、そもそも「キャリア」とは何でしょうか? もちろん英語careerを辞書で調べればすぐわかりますから、言葉の意味合い自体は難解なものではありません。職歴、経歴、履歴、成功、出世、疾走などという言葉がすぐに見つかります。しかしキャリアという言葉には「こうあるべき」とか「こうでなければならない」という拘束はありません。まさに人それぞれ、十人十色で、すべてのビジネスパーソンに個々のオリジナルと呼べるキャリアが内在しているはずです。ですから原点に還って深く考えたとき、キャリアには正解がありません。言い換えれば自分自身が納得し、充実していたり幸福を感じたりしていれば、他人の評価を気にする必要はないのです。

しかしながら、キャリアを推し量る客観的な事実や数値を参考にする場合に悩むことがあります。一例を申し上げると、肩書や年収への評価、このあたりが自分自身と向き合って自己完結させることを難しくしているのではないでしょうか。ともすると他人との比較で一喜一憂する羽目になっているかもしれません。自分のキャリアに対する評価を自分自身で難しくしてしまっている方が圧倒的に多いのではないでしょうか。先ほど申し上げた肩書や年収というのも、なかなか単純比較はできないものです。極端な言い方をすれば肩書は万単位の従業員を擁する会社と、生まれたばかりのスタートアップ企業では、意味合いが異なります。組織の陣容が違うわけですから、仮に似たタイプの会社であっても単純に比較はできません。いろいろな権限の行使にも違いがあるはずです。キャリアに対する評価は難しいものがあります。

そして年収に関しても従事している業界や業種によってもともと基準値が違うはずです。例えば冒頭申し上げたような、仕事の充実度が高く、非常にハイリスク・ハイリターンである外資系金融機関に代表されます。更にそのなかでも特殊な職種の難しい領域で仕事を成就すれば、何千万から何億という単位に近いインセンティブを受け取れる可能性を秘めています。その一方、一定期間で業績を挙げられなければ、ある日出社した途端に解雇を通告され、昼までに会社を退出するように指示されるなど、日本では考えられない状況にも出会うわけです。こうした信賞必罰の大きな業種もありながら、逆に年収の額面はゆるやかに見えても伝統的な各種手当(住宅手当・家族手当など)が手厚い会社もあります。額面だけを見ればそう大きな金額ではないにしても、可処分所得を計算してみると、平均所得を大幅に超えているケースがあります。加えて労働組合の力が強く、よほどのことがなければキャリアダウンやレイオフがない、従業員を手厚く保護することを伝統にしている業種や業態も存在するわけです。したがってキャリアだけを取り上げて一概にその是非を単純比較することはできません。いつも申し上げるのですが「となりの芝生は青く見える」ものなのです。

ですからキャリアというものを基本に立ち返って考えるとき、そこで踊らされる必要は全くないわけです。では踊らされないために自分で自己完結すること、そして「自分自身である程度の主観的または客観的な評価ができるようにする」ためには何が必要なのでしょうか。私どもの会社はエグゼクティブを対象としたサーチビジネスを長く手掛けてきました。その経験から考えるに、基本的にはみなさまのキャリアの評価や、充実感を得る重要な背景は、今から申し上げる要素から構成されていると考えています。そしてこの要素の優先順位を明確に捉えておくべきだとお伝えしています。その要素とは次の3項目に集約されます。
①年収
②ポジション(役割、職位、権限等)
③自分のやりたいこと
以上に集約されますが、これらの優先順位は人によって変わります。私どもが100人のビジネスパーソンにお会いしたとき、突き詰めると100人中80人の方が優先なさるのは「やりたいこと」になります。次に「年収」、「ポジション」と続きます(ポジションが上がってくれば年収も上がってくるという相関関係が起きやすいので、このような優先順位になります)。しかし業種によってはこれらが思ったほどリンクしない場合もあるのが難しいところです。私どもの知見では、多くの方は「自分のやりたいこと」ができていないのではないでしょうか。前回のコラムでも触れましたが、現在の会社や環境で仕事を積み重ねていったとき、自分が将来やりたいことが叶うのかどうか。それが大事です。いくら頑張って結果を残しても、自分のやりたいことが別にあり、それが叶わないということになれば、その方は幸福になれません。その場合は、そこで初めて転職を意識しなくてはならないかもしれません。

この3要素は微妙に揺れ動きます。仮に家庭を持ったり、何かの資金が必要になったり、自分自身の環境が変化するタイミングがあったとします。そのときにこの3要素が同じ順位でみなさまの頭の中に湧きあがったりしやすいものです。すなわち優先順位がつけられなくなり混乱するのです。問題が日替わりで動き回り、自分が本来見るべきものが見えにくくなります。それぞれは難しいものではないのですが、この3要素の優先順位を明確につけること、そして「自分が本当にやりたいことは何なのか」という点に絞って定期的に頭をリフレッシュさせることが大事だと思います。これがキャリアの迷宮に入り込むリスクを避ける方法です。

余談ですが「年収はある一定額を超えると幸福係数には関係しなくなる」といわれています。これは日本のみならず、欧米でも一般的にキャリアカウンセリングなどで語られることです。目標としている年収にまだ一度も到達していないという方もいらっしゃるでしょうし、お金に対する価値観は年齢によって違うこともあり、一概には語れません。それでもたまには「やりたいこと」に自分のベクトルを合わせてみてはいかがでしょう。キャリアについての「灯台下暗し」や「急がば回れ」は、「そもそもキャリアってなに?」という原点に立ち返るよい機会になるのではないでしょうか。