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経費濫用と公私混同① 失脚の要因
経費濫用と公私混同についてはこのコラムでも「リファレンスチェック」のところで触れたことがありました。実は最近になって私のごく近くでこれらの事例を見聞したことがあり、ここでは注意喚起を兼ねて取り上げておきたいと思います。
ビジネスの世界では優れた能力と実績を持ちながら、会社のトップに就任するチャンスを逸してしまう人をかなり多くお見受けします。会社における最高位のポストを目前に、どれだけの「次期社長」が消えていったことでしょう。みなさまも新聞やテレビのニュースで企業の内幕を知ることがあると思いますが、かなり高い地位にいる人物が経費濫用と公私混同で問題を起こして失脚するという事件もよく報じられます。銀行員が顧客の金を横領したなどという典型的なスキャンダルもありますが、私が申し上げるのはそのようにありがちな事例ではなく、次期社長候補と目されるようなエグゼクティブが失脚する話です。トップに登りつめる能力と実績のある人物が「本人も気づかないところでチャンスを逃している」ということがあります。会社の最高位に手が届くところにいながら、経費濫用と公私混同という微妙な問題を背景に抱えていると、これが失脚を引き起こす原因になってしまいます。
経費濫用と公私混同といっても、会社によってはある程度のパジェットが与えられている場合もあるので、一概に責めることはできません。本人にそれなりの権限が与えられており、経費の使い道が所属している会社のガイドラインに沿っているなら、特に問題になることはないはずです。会社の価値観にもよりますが、最近のトレンドから見ると、対象者が最高位のポストに近づいていく場合、またはいよいよ経営者として選定される場合、大企業は「指名委員会」のような組織で決定する方式にするか、現社長の専権事項としての伝統的な方式にするかという選択肢があります。いずれにしても次期社長候補者の能力は衆目の一致するところです。これまで挙げてきた業績はわかりやすく、人柄も受け入れられているに違いありません。
ここで問題なのは「この人を次期社長の有力候補者として最終選考に推挙しよう」と評価が固まった時点以降にスキャンダルチェックの対象となるのが多いことです。実のところ、かなり以前から調べられていたとしても、この種の問題は評価対象になっていないことが多く、つまりこれまでは経費濫用や公私混同の問題をあまり重要視されていなかったのです。多くの場合、部長クラスや執行役員レベルでは許容されている範囲だったのでしょう。そのようにあまり重視されていなかった問題でありながら、最高位のポスト直前になって突然、問題の比重が大きくなってくる可能性があるのです。なぜかというと会社のステークホルダーの方々や、商品やサービスをご愛顧いただいている消費者のみなさまに何か不都合があった場合、例えば危急存亡に関わるようなクレームを受けたような場合に、会社は大きなスキャンダルに巻き込まれる恐れがあります。かつてプライバシーで守られていた経営トップの素性も簡単に外に出てしまいます。ここで経費濫用と公私混同が指摘されると、いかに優秀な経営者や役員として実力を発揮していても許容されずに集中砲火を浴びてしまうことがあります。冷静に考えるべきパジェットの問題を、トップの素行の問題として捉える人が増えたせいかもしれません。かつて何の問題にもならなかった経費濫用と公私混同がトップに近づけば近づくほど大きなスキャンダルになる可能性があること、そしてこれが本人の気づかないうちに失脚の要因となりうること、この点を意識しておくようアドバイスさせていただきます。