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社 長 コ ラ ムCOLUMN

第114回
2026.05.07

異動にも王道がある

今回の題材は主に大企業の社員を前提とした定義づけになります。これまで数回のコラムで話題にしてきたように、在職している企業でトップキャリアをめざしている場合を取り上げましょう。ここでは過去にご自身が配属されてきた部署を振り返ることで、ある程度、企業からあなた様がどのような期待をされているかを判断する指標になるはずです。

具体的な例としては各企業ごとに「役員レベルの人材に期待する能力」や「経験してほしい要素」というガイドラインが存在します。この指針はその会社のなかで存在がウワサになることはありますが、確実なガイドラインとして公表されることはありません。昨今多くなった監査等委員会設置企業すなわち指名委員会を擁するような会社の場合は、この委員会が次期CEOをはじめとしたCXOレベルに求めることや、この企業の中期的な進むべき道を策定します。前任者の長所と短所を冷静に分析し、次期役員にどういう能力が求められるか、どういった人柄がふさわしいかというようなことが指名委員会を中心に決められています。ですからこれは当然企業のトップシークレットになっており、ホットな現状はウワサレベルではともかく正確な情報としてはみなさまのお耳に触れることはないと思います。経営層をめざしていく方を見ると、企業ごとにある程度の個性の差が感じられます。ここで言うある程度の傾向というのは、過去から分析することができますから、これまで歩んできたキャリアの平均値、または過去の栄光と照らし合わせた時に、今ならどの程度期待できるか、知ることができるかもしれません。

具体的な一例を挙げてみたいと思います。ある大手総合商社ではかつて次のような事例を目にすることがありました。その方は大学を卒業して新卒でこの会社に入社し、20代前半は配属された部門で目の前に下りてくる仕事を確実にこなすことを優先しました。この時点では将来の期待値に個人差はあれど、実績値にはまだ大きな違いはありません。まず目の前の仕事を確実にこなして成果を挙げるという20代前半の競争は始まっていますが、企業として見た時にまだ大きな成果にはなっていません。ところが20代の後半に差し掛かると、この会社のたけなわとでも言いましょうか、自他ともに認める有望で社運を賭けたプロジェクトメンバーの若手スタッフとして声が掛かり、抜擢されるというようなことが起こり得ます。その後、30代前半で社内選抜を経て、国内外のビジネススクールでMBA取得のために社費で派遣され、取得後に会社に戻ってきた時点で、大きな事業部あるいは大きな支店などの部署に配属され、スケールの大きな数字の実務経験を積まされます。そして次が非常に重要なのですが、30代の中盤ごろ、ジョイント・ベンチャーあるいは何かしらの子会社に出向し、30代のうちに社長を中心とした経営経験を積みます。ここでも比較的目に留まる実績、例えばスタートアップ企業を軌道に乗せるとか、あるいは業績不振だったお荷物会社をV字回復させるとか、独自のアイデアで新しい事業の礎を築くとか、そういった結果を出して40代に自他ともに認める役員候補の一人として本社に戻るという流れです。

これらは一例をご紹介しているだけで、これ以外の異動のステップが無意味だと言っているわけではありません。ここでキーになるのは、大きい会社の場合、次のようなポイントがあるということです。
・選抜されてプロジェクトメンバーにアサインされていること
・会社派遣で何らかの教育機関に通っていること
・若いうちに子会社等で経験を積まされていること
この3つの要素がかなり重要になります。これらはだれにでも適当にチャンスを与えるものではなく、会社としてかなりの投資をしているので、この時点では選抜というふるいに掛けられた上での一候補者になったと言ってよいと思います。外資系企業ではもっと生々しく、グローバルのトップリーダー養成のプログラムというものが社内にも明示されていて「君はこのグローバルの養成候補の全社員のなかの1%のメンバーシップに入っているので、いよいよ頑張ってくれたまえ」のように非常にわかりやすく、現在の立ち位置を伝えてくれることも多いようです。そこに誰が入っていて、誰が入っていないか、ある程度はガラス張りになってしまいます。これはお国柄の違いでもあり、信賞必罰を推進しようという面もあるかもしれません。きわどい比喩かもしれませんが、むかしはガンの告知はしませんでした。今はインフォームド・コンセントの時代です。効果が期待される場合でも、されない場合でも、どちらも「情報は包み隠さず伝えるのが常識」という風潮になってきています。もちろん日の当たる場所にいる人だけでなく、影のなかに隠れている縁の下の力持ち的な人や、地味な間接部門の人がめきめきと頭角をあらわし、そこからキャリアを開花させる方もいらっしゃるでしょう。もちろん唯一の正解というものはありません。ただしこちらがお伝えしたいのは、この時代、若いうちに会社のリソースでもかまわないので経営経験を積んでいることです。経営経験を積んでいることは、トップへの登竜門として避けて通れない原則になっています。そうしたポジションに遅くとも40代前半までに就いているかどうか。経営層を着実にめざしていきたいという野心のある方にとっては、現在の所属企業で可能性のある現実的な観点として参考にしていただければよろしいのではないでしょうか。

この例は商社で活躍したビジネスパーソンの王道でしたが、もし航空会社ですとまた変わってきます。航空会社には燃料の備蓄を仕切る部門があります。この部署は原油価格が下落している時に原油を大量に仕入れて備蓄しています。この部門は非常に権益が大きいので、ここを経験していない人物は経営層に入ってこないといいます。一般にはあまり知られていませんが、航空会社ならではの異動の王道だと思います。また大手証券会社には企業調査部という部署があり、ここはM&Aなどを手掛ける花形として知られています。経営層をめざすならここに入ったことがないと厳しいと言われています。そして銀行などの金融機関を見ると、財務省担当、日銀担当などが王道とされています。そこでは学閥のような現実もありますが、それは致し方ないことだと思います。こうした異動の王道を正しく飛翔しないと通称「人工衛星」となり、ずっと支店を回るようになってしまいます。それが悪いというわけではありませんが、上昇志向があるなら異動の王道をめざしてほしいものです。