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社 長 コ ラ ムCOLUMN

第18回
2018.05.25

花形ポストを人に譲る。

優秀で周囲から一目置かれている人物は、多くの社員が「仕事をしたい」と思っている花形の部署で仕事をしていることが多いものです。花形の部署は、もちろん会社によって違いますが、経営企画、マーケティング、広報などが思い浮かびます。出世コースに乗る人物は30代中盤までにそうした花形部門で仕事を経験することが多いようです。ところが花形部門に長く居座り続けたために会社を去ることになった例もあります。今回は私がかつてキャリアについてお世話させていただいた方の事例をご紹介しましょう。

ある大手化粧品メーカーに勤務するA氏は新卒入社組で、入社当初から仕事ができると評判でした。将来の役員候補と早いうちから期待され、同期の先頭を走っていました。彼はオーナー経営者からの期待も大きく、20代後半で宣伝部門に配属されます。宣伝部門といっても会社によって個々の職域は異なりますが、A氏の場合は企業から「広告主になってほしい」という陳情を受ける専門部署でした。その化粧品会社はテレビ番組やイベントなどで冠スポンサーになることが多く、知名度の高さを誇っていました。A氏はいくつもの企業からスポンサーになってほしいという陳情を受け、その投資対効果を分析し、どの会社を採用するか、どのくらいの予算を配分するかなどについて、大きな権限を握っていました。聞くところによると20代後半で30億円規模の年間予算を投入するプロモーションの事実上のゲートキーパーの役目を果たしていたそうです。オーナー経営者にかわいがられていたこともあり、社内外に大きな影響力を行使できる立場にいたわけです。

A氏はその業務をライフワークと思って精力的にこなし、毎日が充実していたため、転職のニーズはなかったのですが、私は年1回くらいのペースで面談し、彼のキャリアについて報告や相談を受けていました。

するとA氏の花形ポストでの在籍期間が5年を超えたあたりから、社内で彼の評価に異変が出てきました。というのも、実は彼の就いている花形ポストについては、本来は3年で他の部門に異動し、次の人物に譲るというカルチャーがあったのです。しかしA氏は楽しく充実した業務にライフワークであるかのように取り組み、オーナー経営者の後ろ盾もあったせいか、5年、6年と花形ポストを独占していたのです。そのため、いつのまにか社内では、ねたみ、やっかみの対象となってしまいました。

そうした話を聞き、私はA氏のために調査を実施しました。するとやはり花形部門で3年を経過したら次の人に譲り、自分は社内で一番厳しいとされている部門に異動するという不文律があったことが分かりました。A氏が花形ポストを長く独占してしまったため、社内からオーナー経営者に対してネガティブキャンペーンが張られていたことも分かりました。A氏の宣伝部での実績は高く、会社に貢献していたのですが、インフォーマルな人気が低下してしまい、いわゆる出世コースから外れてしまいました。後日談ですが、A氏は30代後半で社内のラインから外れ、他社に転職することになりました。私はその転職をお世話させていただきましたが、彼の華々しい活躍を知っているだけに、心中複雑なものがありました。もし彼が花形ポストを早めに次に譲り、厳しいセクションで仕事に取り組んでいれば、今頃は経営者として活躍していたかもしれません。私も「経営者としての器」というものを考えさせられた事例でした。