東京エグゼクティブ・サーチ株式会社
取締役
坪井雄二郎(つぼいゆうじろう)
「売れる人材」、最近良く目にする言葉ですね。要するにどこでも通用する技能の持ち主の事らしいのですが、経済学の分野ではどのように説明されているのでしょうか?
労働経済学の分野で著名な慶応義塾大学教授の清家篤さんは、新聞のコラムシリーズで、ノーベル経済学賞受賞者のベッカー・シカゴ大学教授による「人的資本理論」を紹介しながらこのように説明しています。
“人的資本理論の重要なキーワードは「企業特殊的熟練」と「一般的熟練」だ。”
この理論によると、「企業特殊的熟練」とは勤めている会社だけでしか通用しない能力で、一方「一般的熟練」とはどの会社でも役に立つ能力だというのです。
例えばある会社で管理職になっていくためには、その会社独自の制度や仕組み或いは風土といったものを身につけるなどその企業に特殊な能力を必要とすることが多く、つまり企業特殊的熟練であるのに対し、いわゆる専門職としてどこでも通用する腕を磨くことは一般的熟練ということになるのです。
面白いことに、日本でゼネラリストと呼ばれる事務系キャリアがベッカー教授の理論ではより企業特殊的であり、スペシャリストと呼ばれる技術系キャリアがより一般的ということになります。
これを端的に言うと、今の日本では技術系専門職のほうが一般的能力を持っており、市場性のある「売れる人材」ということになってしまいますが、無論これは説明の為の誇張的な例で、決して「技術系は良いが事務系は売れない人材だ」と言っている訳ではありません。
ここで一番重要なポイントは、生涯一企業が神話になりつつある現代社会で自分の雇用を守るためには、“どこの企業でも通用する一般的熟練、つまり市場性のある能力を磨け”ということなのです。でも会社は普通このような個人の一般的熟練を高める為の費用負担はしてくれません。
“どのような能力を磨けば市場性を高めることが出来るのか?”迄は清家教授も書いてはいませんでしたが、いずれにせよ「売れる人材」になるには、自分で自分に投資をしていくのが基本のようです。